『勇者の谷』を読みました

  • 2018.08.05 Sunday
  • 21:50

娘の夏休みに付き合いながら、久しぶりに海外翻訳ファンタジーにはまっています。 面白かったものを随時ご紹介。

 

勇者の谷

 

あらすじ

周囲を山々と荒野に囲まれた谷。

谷沿いの土地には12の家に分かれた領主がおり、それぞれの家の先祖は、かつて力を合わせて怪物と戦った12人の勇者だという伝説がある。

主人公ハリは領主家のひとつ、スヴェンソン家の次男。

短足で不細工、すぐかっとなるたちで、一家の厄介者扱いだ。

とある事件をきっかけに家を出奔したハリ。

谷のほかの領地を巡るうち、憧れの先祖の伝説に疑問を抱くようになる。

史実同様に重んじてきた伝説は、ただのお話に過ぎなかったのか。

地中に住み、人を襲って喰う怪物トローは実在しないのか。

気の強い美少女アウドとの出会い、勃発する家同士の抗争を経て、ハリは驚くべき真実にたどり着く・・・。

 

 

感想(ネタバレ含みます。未読の方はご注意ください)

 

↓  ↓  ↓

 

守られている。 違う。 閉じ込められている。

 

怪物よりも怖かったのは、連綿と続いてきた先祖の思いでした。

 

主人公の成長譚であると同時に、禁忌(タブー)の裏を抉り出す物語でもありました。

人間の住む土地は先祖代々の墓所でもある「ケルン」に囲われています。

ケルンの内側は先祖によって守られているが、一歩外に出たら、恐ろしいトローに地中に引きずり込まれる。

領主も領民もみんなそう信じ、「境界を越えてはいけない」という禁忌に触れぬよう、谷の中だけで暮らしています。

でもこの禁忌、子孫を守るため、とは表向き。

実は、彼らをずっと自分の膝元に置いておこうとする父祖のエゴから生まれたものでした。

 

夜中に読んでいてゾッとしたのは、アウドの徹底的な合理精神で一度は存在を否定されたトローが「もしかして・・・いるの?」となり、ついで「えっ、トローじゃなくて・・・だったの?」となる一連の流れ。

 

著者ジョナサン・ストラウドは、ホラーっぽく盛り上げるのが本当に上手!

 

禁忌の裏事情を知った若いハリは、アウドと共に古い世界を捨て、既存の壁を越えてゆきます。

父祖の勇者スヴェンも、元は開拓者の息子でした。

なんだかんだ言われても「スヴェンソン家らしさ」を誰より濃く受け継いでいたのがハリだったのでしょう。

偉大な父なるものへの反抗を貫いたハリ。

いつか彼が新たな家の父祖となり、反抗される立場になるときが来るかもしれません。

でも、ハリならスヴェンのようにはならないだろうな、と思えます。アウドもついてるし。

 

読後感は諸星大二郎の漫画『マッドメン』や『夢の木の下で』に通じるものが。

 

ちょっとひねくれた人間の性格描写が好きになり、ストラウドの前作にして代表作『バーティミアス』全3巻も読みました。

そちらも後日レビューしたいと思います。

 

 

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