『雨の日はお化けがいるから』を読みました
- 2018.01.31 Wednesday
- 10:45
昨年12月に出ていた諸星大二郎『雨の日はお化けがいるから』を読みました。
諸星大二郎劇場 第1集 雨の日はお化けがいるから (ビッグコミックススペシャル)
「諸星大二郎劇場第1集」とあります。第2集が今から楽しみだったり。
冒頭作品は『闇綱祭り』。
世界の均衡を崩したのは、あの夜の綱引きかもしれない…。
一地方に伝わる奇祭とその崩壊を通じ、破たんする世界秩序への不安が描かれます。
現代社会と諸星民俗学との見事な融合。少なくともこの作品における世界の均衡はばっちりです。
短編集なので、ダークな奇譚ありナンセンスギャグあり、ファンには嬉しい詰め合わせの一冊。
特に印象的だった『ゴジラを見た少年』について、ちょっと長く語らせて下さい^^
主人公の少年は、東日本大震災で被災。家と家族を失いました。
彼の中では、DVDで観たゴジラの破壊行為と、震災による被害がシンクロしています。
ゴジラを見た、と主張する少年の言葉を唯一信じてくれたのは、眼帯をした不思議な人物。
彼は「ゴジラは必ず去っていくものだ」と言うのですが…。
少年がラストシーンで直感したことにぞっとして、しばらく二度目が読めませんでした。
主人公にしか見えない、街を襲う巨大な生物といえば、諸星短編の『影の街』が浮かびます。
『影の街』主人公の少年は、自分に都合の悪いものがなくなればいい、と思っている。
そんな折、夢に巨大な異形の姿が現れ、少年の願いを叶えていく。
夢の中でのその破壊行為は、事故や火事の形をとって、現実にリンクしているようです。
やがて知った異形の正体に恐怖する少年ですが、ラストシーンでは、彼が破壊というアグレッシブな現実逃避にすっかり魅せられていることが示唆されます。
いっぽう『ゴジラを見た少年』では、少年の世界を揺るがすのは震災という大自然の驚異。
それから、人間が造り出して以来、制御しようとしてできずにいる、あの存在。
人智を超えた破滅的な力への恐れを、少年はゴジラに仮託して理解しようとするのです。
個人の内面の闇を現実世界に投影したのが『影の街』の影。
現実世界の闇を個人の視界に投影したのが『ゴジラを見た少年』のゴジラ。
「属する世界の破壊」を軸として、一対となる作品だと思いました。
意のままにならない自然を排除してきた人間の営為を、
異形の姿やゴジラに重ねてみると、
ひどく禍々しい写真のネガとポジを合わせてしまった気がします。
ちなみにこの『ゴジラを見た少年』。
ビッグコミック『ゴジラ増刊号』企画に寄せて描かれた作品のため、ゴジラ映画を知らないと、眼帯をした人物が誰なのかわからない。
ゴジラ第一作目に登場する博士らしいので、DVDで借りて観てみました。
ゴジラ(昭和29年度作品) 東宝DVD名作セレクション
最初にゴジラを目撃した少年の家族構成、眼帯の人物=芹沢博士がふらつく相手の背中を支えるシーンが、『ゴジラを見た少年』でオマージュとして使われていました。
映画のキーマンは平田昭彦演じる天才科学者・芹沢博士。
戦時下で恐らく火器によって負傷し、隻目になっています。
科学者=現代の鍛冶師、という含みがあるのかもしれません。
水から生まれた破壊の火であるゴジラVS、火に傷つけられ、水を扱う技術を持った現代の鍛冶師、というところ。
博士自身がゴジラという荒ぶる魂への捧げものだった、という見方もあるでしょう。
映画冒頭で、ゴジラの伝説を知る老人が、生け贄の話をちょっと振っていますしね。
柳田邦男『一目小僧その他』を下敷きにした諸星作品『詔命』(旧題『礎』)や、『鎮守の森』で隻眼となった男のたどる運命が思われる。
戦争で傷つき、自分個人の幸せを諦め、それでもなお善き人である芹沢博士なので、最後の台詞には本当に泣けてしまいました。
ゴジラ第一作も、そのオマージュである『ゴジラを見た少年』も、本当に恐ろしいのですが、未見未読の方にはぜひにとおすすめいたします。
失楽園 (ジャンプスーパーコミックス)
『詔命』が読める諸星漫画『失楽園』
汝、神になれ鬼になれ―諸星大二郎自選短編集 (集英社文庫―コミック版)
『鎮守の森』が読める諸星漫画『汝、神になれ鬼になれ』
一目小僧その他 (角川ソフィア文庫)
永遠の参考書・柳田邦男『一目小僧その他』
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